大丈夫 餡黴
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抱き締めて、抱き締めた

強く抱き締めるものだから、こちらも負けじと抱き締める。

俺らは、こんな感じで確かめあわないと駄目みたいだ。

俺に触れるこの腕は、温もりは…俺にとっては温か過ぎるんだ。


「温かいよ」


そう言えば、黒髪の男はちょっと震える。俺の肩に顔を預けてる状態だから、どういう表情をしているか判らないけど。多分、幸せな顔をしているんだと思う


「ごめん、ごめんね」


「……何を謝っているのだ?」


抱き締める力は緩めない。緩めてしまえば、この男は不安になってしまいそうだから。

「敵なのに、ボク達とは正反対で…ボク達に害を及ぼす敵なのに…」


ぽつりぽつりと黒髪の男は喋る。
それを俺は聞く役。別に嫌じゃないし。


「……」


「この身体になってから、そんな事無いんだと思ってた。普通に接する事が出来るんじゃないかと思ってた。だけど何でだろうね…」


こいつは何時もはこんな風に精神が弱い奴じゃない。
むしろ強い方だ。


「やっぱり難しいや、前よりもっと難しくなってる。君を大事にしたいのに、君は悪役だから倒さなきゃいけない。街が平和にならないんだ」


背中を擦って子どもの様にあやす。俺よりも大きく、背中が広くて包みこむ様に見えていたが今はそんな姿は見えない


「ボクがこんな優柔不断でなければ良かった。メリハリのある性格だったら…君を、大事に出来たかなぁ?」


黒髪の男は何か勘違いをしているのか?
全て聞いてやるつもりだったが、何かが抑え切れなくなって出る


「大事にしてるだろっ。」


「ふぉえ?」


素頓狂な声を上げて、俺の両肩を掴み、顔を覗きこむ


「何変な声だしてんだよ」


「いや、何かそんな話を遮って自分の意見を言うとは思わなくて」


「グダクダ聞いてると気持ちがもやもやしまくったんだよ。この話を聞いてる見にもなれや!阿呆っ」


ちょっと黒髪の男は混乱してるのか、頭を傾げてヘンテコな表情をしてる。
阿呆っぽい顔だな。流石阿呆。


「君に阿呆って言われなくないよ!ばっかじゃないの!」

ちょっと怒り気味になったのが面白くて吹く。
それを見て黒髪の男は顔を膨らます。
やべぇ、面白い


「くくくッ…あはははは!」


「笑う何て酷くない?!こっちは君に対して深刻な話してるのにー」


まだ肩を掴まれてるから、この黒髪の男と距離は変わらない。
触れる手は変わらず温かい。この温かさは大事にしてる証拠でもあるんじゃねぇか?
そう言うのに気付かないのって笑っちまうじゃないか。


俺の肩に触れている温かい手の上に俺の手を乗せる。


「大丈夫。俺様は大好きだよ」

そんな事を言ったら黒髪の男の肩が少しだけ動いた


「お前は、俺を倒した時とか少し罪悪感あるだろ?あははっ、俺様が一方的に酷い事してもだぞ?阿呆だろ、優し過ぎて。」


「…君が、皆に迷惑な事するからだろ?あんな事しなかったら、君に傷を付けるなんて事はなかったんだ。君も反省してよ」


真剣な瞳で見る黒髪の男の顔に、俺の片方の手を添える。丁度頬辺りに手が行った。


「反省?するわけねぇだろ。俺様はお前を懲らしめる事が生きがいだから。」


「懲らしめる事なら今、してるじゃん。…お説教…かな?」


今度は黒髪の男が笑う。


「懲らしめるんなら、俺は肉体的が良い。」


「ひでぇ!肉体的とか痛いじゃん」



「おい、俺はその痛い事をされてるんだぞ?」


「それは君が悪いからしょうがない」


「だって俺、敵じゃん。悪い事も好きだしなぁ…」


正反対な俺達だからこそ、こんなにぶつかりあいながら両方に惹かれて、焦がれて、絡み合って


別に敵だからって考えは前まではあったけど黒髪の男と居るとそんなのどうでも良くなった。


「敵じゃ、なかったらなぁ…君と皆と仲良く暮らせたのに」


けどこいつは抱えてるモノが大き過ぎるのか、時々弱くなる。この俺よりもだぞ?……いや、俺は弱くないけどなっ

けど皆と仲良くか……


「…俺は嫌だ。」


黒髪の男はちょっと残念そうな顔をする。
そりゃそうだろうな…自分とは違う考えなんだから


「仲良くなったら違いが分からなくなる。敵だったら俺を見てくれるし、俺達にしか出来ない事が出来るじゃないか」


「…だけど、ボクは君と人前でも仲良くなりたいんだ」


また黒髪の男は俺に抱き付く。そして抱き締める。


「俺達は求め方も反対なんだな。」


温か過ぎる黒髪の男の体温を感じながらぽつりと問う


「…君がボクと同じになればこんな悩まなくて済むんだ」

「悩む?何で悩まなきゃいけないんだよ。別に俺もお前もお互い認めてる仲だし?堂々としてりゃ良いじゃん。」


「人前嫌いなくせに?」


「隠れて堂々としてれば良い。どんなに離れてても、心…気持ちはいつも寄り添ってるんだし」


こんな会話してて良く自分はこんなに素直に言葉が言えるのか判らなかった。
普段はこんな事言わないんだけどなぁー…


「……何か、バイキンマンからそんな言葉が返って来るとは思わなかった……バイキンマン、何かあった?」


顔をうずくめる黒髪の男はそんな事を言う


「お前がウザすぎたから言った。こんな事で悩むよりも俺様の悪戯をどうするか考えた方が得するぞ?」


こんな答えが無い問題やったって意味ないし


「…そーかも知れないね。うん、そーだよね。ふふっ…やっと気持ちが落ち着いたよ。どーも」


そう言って俺様から離れて普段通りの顔をする


「じゃあボクは帰るよ。スッキリしたし。」


「今回は一段とウザかったから、悪戯する時は水責めしてやるからな」


あの温か過ぎる体温から離れてからちょっと寒く感じた。


黒髪の男は満面の笑みをして言う


「あははっ、さいてー!ボクの服とか顔とか濡らさないでね」


「いや、濡らすし。顔面を狙ってやるからな!」


そうそう、これが何時も通りの会話


「ふふふ、ねぇバイキンマン?」


「何なのだ?」


マントを広げ、宙へと浮く黒髪の男に顔を向ける


黒髪の男のは少し困った様な複雑な顔を俺に向ける


「また、ボクが壊れかけたら助けて…」


見つめ合いながら、やっぱりこいつは阿呆だと思った。


ふわふわと浮く黒髪の男を見上げ、俺は勝ち誇った様な笑みをする


「アーホ。助けてってお前から俺の所に来るんだぞ?俺は何もしてないし、助けてなんかいない。これはお前の自己満足だろ。俺様はお前の話を聞いてるだけだ。」


そう言うと黒髪の男は首を横に振る


「その話を聞いてくれるのは、バイキンマン、君だけなんだ。だからお願いね」


「お前は1人じゃ何も出来ないのは知ってるし、みんなそうだろ?だから、俺にしか出来ない事があるんなら。」


俺は両腕を大きく広げる


黒髪の男が安心する言葉を…だから俺は少し笑いながら言う


「俺様はお前を受け止めて、受け入れて、近くにいてやるよ。俺の出来る事はそれくらいしかないし、な?」


俺がその言葉を言ったら黒髪の男の切なく、懇願した表情は優しい表情へと変わっていく


「…バイキンマンのこの優しさが、皆も分かれば良いのに。」


「だから、優しくなんかないだろ。弱い弱いお前を近くで見て楽しんでるだけだ。てか…」


俺は後ろのポケットから小型の銃を取り出し黒髪の男に向ける


「…え?何それ!怖いんだけど!向けないでよ!」


お前は早く皆に会って、元気になれ馬鹿。
俺様は聞く役だけど、あいつらは…俺には持ってないものを、もってるからな


「早くこっから出てけ。もう元気になったんだ。じゃぁな」


慌てる黒髪の男目掛けて引き金を引く


中から出るのは俺特製の水鉄砲。
黒髪の男はその水鉄砲をギリギリで避ける。
俺は何度も狙いを定めて撃つ。


「ちょっ!……うわッ危な…危ないって!」


「危なくて良かったな。ほら、濡れるぞ。早く帰れ。」


「酷い!いーよボク帰るからねッ!」


黒髪の男は水を避けながら皆のいる所へ帰って行く


水鉄砲が届かない所まで翔んで行ったから撃つのを止めて、黒髪の男に向かって声を上げる。


「忘れるなよっ!俺様はお前の敵で、お前がいる限り側にいてやる!忘れるなよ!アンパンマン!!」


聞こえてないか、と思っていたら黒髪の男が翔んでいる所から声が聞こえた。


「ボクもバイキンマンがいる限り、また来るから!またね!!」



俺は黒髪の男の姿が見えなるまで見送った


「じゃあ、俺様も帰りますかー」


俺も皆が待っている所に行く。
てくてくと歩いてふと思った事を口にする


「俺様は敵だから、アンパンマンの事を考えていられる。だから、」


空を見上げ、太陽の光を感じ黒髪の男とはまた違う温かさを感じる



「お前も同じでいてくれ。アンパンマン。大好きだよ」











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