執着(キルズル
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「……ぁ…そーだ。キレ兄ぃも俺の身体のお陰で命を繋いでんじゃねぇか!」

「は?」

「だーかーら!俺はバラバラになってもキレ兄ぃの近く…いや、側にいるじゃんか!俺たちはずっと一緒に居るって事だよな?!」


突然キルネンコが大声で喋り出した事に驚いて、素晴らしく出来の良い自画像を見ていたズルゾロフが間抜けな声を出す。


「ハァ?何だよ。黙りしたと思ったら突然意味わかんないこと言って。僕の部屋に来ないで。邪魔、鬱陶しい、早く出てって〜」


此処はズルゾロフの尋問部屋。書類や写真など、紙が散乱している机の近くにズルゾロフは居た。
冷めた目をして虫を追い払う様な態度をしてる。そんな態度に少しムッとしたキルネンコは近くにあった椅子にどかりと座り、慣れた手つきでライターに火を付け煙草を吸う。

因みにズルゾロフのお気に入りの煙草の銘柄。肺いっぱいに入った煙をズルゾロフに吹きかけた。


「判れよ露出狂ナルシスト野郎〜!」

「うわっやめろ黙れ!この良い歳したキチガイ厨二病野郎!」

「うっせぇ!…はぁぁ、俺は今キレ兄ぃとの愛の繋がりについて語ろうとしてんのによ〜」

「お前の一方的で歪んだ愛なんか聞いてもこのズルゾロフ様には興味がないので、なーんも関係ございませーん。てか何?いきなり僕の尋問部屋に来たと思ったらさ、物言わずそこのどでかい針鼠殺しちゃって…何やってんの?意味不明なんだけど」


ズルゾロフは嫌々そこの針鼠に指を指す。情報を手に入れる為に捕まえた人間、であった物体。…情報を得るため逃げない様、キツく縛り付けたのが徒となったか…今じゃ赤黒針鼠状態だ。

昨日、部下に掃除を頼んだのも意味が無くなった。コンクリートに赤黒い血が付着して大変良い迷惑だ。

これだったら掃除が楽な部屋に移動していた方が良かったのかもしれない…そんな事をズルゾロフは頭を抱えながら後悔していた。

だが、不気味な物体を造りあげた張本人は気にもしないでくつろいでいる。神経の何処かが欠損して壊れてるに違いない、と心の中で確信した。


「ん〜、だって俺考え事してたからさ〜。しかも俺に死ねとかぶっ殺してやるとか言ってたっぽいし、俺を愛してくれないみたいだから可愛くデコってみた♪」

「…キチガイなデコしないでよ気持ち悪い!可愛くないから!もう!お前のせいで僕のこの場所に広がるエレガントな香りが台無しになったんだからな!めっちゃくちゃ嫌な臭いがするんだよっ!だから早く出せ、早く出せよ!!」

「そんな怒んなってwwまぁ知りたい情報は手に入ったんだろ?」

「そりゃまーね。お前が針鼠を製作してる間にベラベラ喋ってくれたさ」


その針鼠になりかけた奴は誰かの…多分仲間の名前だろう。必死に名前を叫びながらも、ちゃんと知りたい情報は言ってくれた。

言えば助かるかもしれない命だろうし、必死に命乞いはするだろう。
針鼠が完成した時には痙攣していて、血のあぶくを吹いて、とてもじゃないが生きている状態ではなかった。あの状況を思い出してしまったズルゾロフは途端吐き気がこみ上げ、口を手で塞いだ。

そんなズルゾロフの様子を愉快だと云わんばかりの表情をして、キルネンコはあることを思い付く。


「アッハハ!だったらこいつは処分しないで見せ物にすればいいじゃねぇか。針鼠のアジトに♪そしたらまたオイシイ情報手に入るかもしれねぇだろ?」

「…え…!?」


キルネンコはそう言って煙草を捨てて立ち上がり、部屋の隅に置いてあった大きめの木箱を持ってくた。その木箱を針鼠の近くに置き、意気揚々とステップを踏みながらズルゾロフに近付き、机に置いてある写真や書類をなぎ払いそこに座る。


「うわ!オイっ!なにしてくれんのっ?!僕の机に座んないでっていつも言ってるだろ!しかも僕の写真まで落としやがって…!ちゃんと拾えよ。…拾えよ!」

「うっせぇなぁ…ズルちゃん怖ーい!」


キルネンコは脅える表情をして、全然怖がってないくせに怖がったふりをしながら机から降り、写真だけ律儀に拾い出す。屈み込んだキルネンコはぶっきらぼうに問い掛けた。


「で、…見せ物にする?」

「…うわぁ…お前ってそこら辺抜け目ないよな。…でも見せ物にしたら僕の命狙われて危ないじゃん」

「大丈夫♪俺がちゃんと守ってあげっから♪」

「どこかの誰かさんに守られないで僕死にかけたんですけど?」


呆れながらそれを言った途端、こちらを見て苦笑いをする。反省はしてるようで何より。


「………アハハ★宛先を俺の所にするからきっと手も足も毒も銃も爆弾も刃物もでねぇよ」


拾い終わった写真をズルゾロフの居る机に置き、針鼠の所に行く。嫌な顔一つしないで針鼠を持ち上げ木箱に無理やり押し込むと、その拍子に何かいけないモノがボキボキと折れる音が聞こえた気がするが…何も聞こえない振りをした。


「………。」


ズルゾロフはキルネンコの手を見る。針鼠を持ち上げたせいで両手には深めの切り傷が所々に出来ていた。だが本人は気にはしないだろうし気にもしないだろう。


本人にとっては、そんなに痛くないだろうし。

あんなの、直ぐ治る。


無理矢理木箱に押し込ませる気色悪い光景を見て、無意識にある言葉が頭に浮かび、あろう事か口に出してしまった。


「…お前はホント不気味だな…悪魔みたい」


木箱の蓋を閉めた瞬間、その言葉を聞いた後、キルネンコは身体をピクリとも動かず硬直させる。

本能的に判る程に、空気が変わった。

それはこの場が凍るのではないかと云うほど。


ズルゾロフは口を押さえた。



“悪魔”



それはキルネンコにとって言ってはならない禁句の言葉だそうだ。



『その言葉を言った者は悲惨な最期を迎えている』



…と言う情報があるから。

しくじった。後悔してももう遅い。無意識に出てしまった言葉にズルゾロフは恐怖する。

いつもニヤニヤと笑っているキルネンコの表情は今は無表情。 木箱に触れていた手を離し、ゆっくりと此方に向かってくる。


「今、なんて言った?」

「…な、何も言ってない…」

「は?そう?俺には『悪魔』って言ってるのが聞こえたんだけどなぁ?」

「…………ッ…」

「答えろよ。怒んねぇからよ?」

「……い、………言った」


今までとは明らかに違う雰囲気のキルネンコに危険を感じ、震える体は逃げる事さえ出来ずに立ち竦む。


…まさに猛獣に食べられようとしている兎だった。


「ふーん。もー。アハハ、違うよ?ズルゾロフ。俺は普通の人間だ。キレ兄ぃがそう言ってくれたんだ。悪魔なんかじゃねぇ。…ただ、他の人よりも傷の治りが早くて痛みもそんな感じない。そして他の人よりも身体の造りがちょっと頑丈で体力もあるだけ。ただ、それだけだ。…そーだよな?……なぁ?」

「ご、めんなさい」

「聞こえねぇよ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい!…もう言わないから!…っ!!?」


キルネンコは胸元のポケットからサバイバルナイフを取り出しズルゾロフのつま先ぎりぎりに刺した。

床はコンクリート。それなのにナイフは深々と刺さっている。どれだけナイフの威力が凄いんだ。


キルネンコの両手の切り傷はいつの間にか塞がっていて、いや、そんな事はどうでもいい。今は何をされるか判らない恐怖で声や脚、全身が震えている。

無表情のままキルネンコはズルゾロフの距離を徐々に狭めていく。


「なぁ。ズルゾロフも、俺を差別すんの?偏見すんのか?」

「…し、しないよ!してない!」

「本当に?じゃあ何で悪魔って言ったんだよ」


ギラリと、兎を喰らう猛獣の瞳をしたキルネンコ。


(死ぬ、殺される…殺される…嫌だヤダ…!)


ズルゾロフの頭の中はそんな言葉でいっぱいだった。

だけど何か言わなくては、言い訳でも謝罪でも良いから何かを言わなければ…赦してもらえない…!

そうしないとこの磨きに磨かれた美しい顔と身体に傷が付き…やがては死。…針鼠みたいに死にたくはない。

キルネンコと目を合わないように視線を泳がせ、震える口を開いた。


「あ、あ…ぁ悪魔的にチョーカッコ良い!って意味で!だから…悪魔み、たいって…言ったんだよ…こ、殺さな、いで…ごめんなさ、い…ごめッ」


何を口走っているんだと、己が目の前にいるのならぶん殴りたかった。


「……へぇえ〜」


後ろは壁。

左右どちらか行こうとしても無駄だった。距離を縮めたキルネンコはズルゾロフの目の前に立っていたから。



「……」


「ごめんなさいごめんなさいッ!…ヤダ、いやだ!死ぬのは嫌だ…ごめんなさい!!」



小刻みに肩を震わせるキルネンコ。

その姿を見てズルゾロフはなすすべ無く、ただ、いるかどうかもわからない神様に祈るしかなかった。



「ククッ」


「ごめんなさいッッ!!!」









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