1/2ページ目 なんで、仕事が休みな日に限ってこういう事が起こるのか。 気分が悪い。 本当に今日は気分が悪ィし最悪だ。どうしてかはしらねェけど…。 胃がむかむかして吐くとか風邪の症状でもない。黒いもやもやが纏わりついてぐずついた気分になる。意味がわからねェ。 家に居ても、お菓子を食べでも、テレビを観ても、お気に入りのソファーに寝ても、全然良くならない。 俺はお気に入りのソファーに寝転がっていた体を起こし、外へ出掛ける準備をする。 「今日も…叫ぶとするか」 こういう時は大抵外で叫んでる。叫んだらこの良く判らないぐずついた気分も軽くなるから。 街中だと異常者と間違われるから廃墟とか、林ん中とか…人が寄り付かない所に行ってる。けど、その行動も怪しいだろ、と自分につっこんだ。 「コプチェフもいねぇなぁ。あ、今日仕事入ってんだっけ?じゃあ今日は家に来ないよな…ラッキー。」 コプチェフにこの症状を相談したことは一度もない。言ったところで意味はないし、ただ頼りたくなかった。 「あいつに言ったらきっと心配し過ぎるからなァ。無駄な負担かけたくねェし。」 俺は外へ出て家の鍵を閉めて、ポケットから出した車の鍵を手に持ち、何処かへ行く。 叫べる場所…この症状を消し去る為の…叫べる場所を。 家に戻った時はもう、夕暮れも過ぎ去った真っ暗な時間。 今回は廃墟で叫んでいた。叫んだらやっぱり少しは症状が良くなった。 「あ゛ー、けど叫び過ぎたか?喉が地味にいてぇ。」 俺は車を車庫に戻し、家の鍵を開けようとしたが違和感に気づいた。鍵を閉めていた扉が何故か開いてた。 こんな事をすンのは奴しかいない。 玄関の扉を静かに開けて、キッチンの方から聞き覚えのある鼻歌を聞きつつ、足音を立てずそちらへ行く。 「ふっふふっふー♪ふっふふっふー♪ふーふふーふふーふふーふふっふっふっふ♪」 香ばしい匂いがする。見覚えの在りすぎる後ろ姿が見える。帰って来たのか…奴は。未だに俺に気付いてないそいつは陽気に鼻歌をしていた。 その数メートル後ろで俺は静かに息を吸い込み、声を張り上げる。 「オいっ!コプチェフ!なに、くまの●ーさんの曲鼻歌で歌いながら料理作ってやがるんだ!?あと、勝手に家に入るなって前々から言ッてンだろ!」 「うわぁ!!びっくりしたぁ!あ、あぁ!オムライスの卵破けたぁあああ!」 「はぁ?!テメェ、オムライスの卵やぶくんじャねぇよ!何やってんだよッ!下手くそ!」 「ボリスが驚かせたんじゃん!俺のせいにしないで!あ、ボリスおかえりー!」 「…このタイミングで?!……た、ただいま…?」 今日は俺の家に来る日だったか…仕事終わって自分の家に帰ってると思ったのに…。 そんな事はお構いなしのコプチェフは何事も無かったように、出来上がったオムライスをテーブルに置く。……破けた方は俺ので、ケチャップで誤魔化してる感が否めない。 「ほら、出来たよ!冷めないうちにど〜ぞ。あとあと、俺特製のプリン作ったからオムライス食べ終わったら食べよ。」 「…お前、来るんなら来るって電話しろよ。」 こいつが勝手に俺の家に入り、俺の冷蔵庫の材料を勝手に使って料理をしているのはもう慣れた。慣れるまでやりやがっからな、こいつ。 俺は破けたオムライスがある所に座る。コプチェフも向かいの椅子に座り、俺はオムライスを口に含む。 あ、このオムライス前より美味い。そんな事は口に出して言わないけどな。 「だってボリス家に居ると思ってさぁー家に入ろうとしたのに鍵掛かってて驚いたよ。だからスペアキーで家に入った。」 続いてコプチェフもオムライスを食べる。少しだけ綻んだ表情をしてるからきっと、美味しく作れた!…とか思ってんだろうな。俺は小さく溜め息をついた。 「俺が休日外出してる時だってあんだよ。てか、俺居ないのに良く鍵開けて、オムライス作ってプリン作って…今日、俺が帰って来なかった場合も考えてたのかよ。バーカ。」 ぱくぱくとオムライスを口に含みながらコプチェフは勝ち誇ったように微笑んでいる。 …まぁ、残念な事にケチャップが口の周りにくっついてるから間抜けな表情にしか見えねェけど。 「なんか、今日はきっと帰って来るんだろうなって思ってたから?俺の直感力すごいよね!」 「自惚れんな。変態ストーカー超能力者め。」 「え?褒めてくれるの?ありがとうっ。」 「あぁ褒めてる、褒めてるぜ。だからお前のその超能力で今すぐ消え失せる事は出来ねェ?」 「うん、無理かな!あ、オムライス食べ終わったね。プリンは?」 「食う。」 「ちょっと待ってて。今取りに行くから〜。」 プリンも食べ終わり、俺は食器洗いをコプチェフに任せ、お気に入りのソファーにダイブする。寝転がりながら首もとに少し触れてみる。 あぁ…ったく喉がいてェ…あいつに対しても叫び過ぎたか…。声枯れてねぇよな? 俺は目を閉じてる。 「はぁ…けど意味わかんねェ。」 この症状は何なんだ。叫ぶ前よりかはだいぶ良くなったのはわかる。けど、治らねェ。 「何なんだ…どうしたら治るんだ?」 「何が?」 一人の世界に入っていたら突然コプチェフの声が聞こえて目を見開く。コプチェフはしゃがみこんで首を傾げている。 「…――っ!!…こ、コプチェフ!!?」 「なになにどうしたの?そんなに驚いて〜。俺悲しいぃ。」 俺は寝転がっていた体をすぐさま起こして、嘘泣きしてるこいつの頭を少し殴ってしまった。殴った直後にいてっ、とくぐもった声が聞こえたが聞こえないふりをした。 「おォおま、……お前、食器洗い終わったのか?」 「痛い!ひどいよ!俺なんにもしてないじゃん!それが終わったからここにいるんじゃないかぁ…。」 コプチェフは俺に殴られた辺りを両手で押さえてる。そんなにいてぇのか? 「はッ!突然俺の近くに来るのが悪ィ。」 「うぅ…ひどいっ。…優しさが欲しい…。………。」 コプチェフは頭を押さえていた手を退かし、俺の顔を覗き込む。その見つめる瞳は真剣に俺をみる。 「ねぇ、ボリス。隣座って良い?」 「…?……座りたきゃ座ればいいだろ。」 「ありがと。」 コプチェフはにこりと微笑んで俺の隣に座る。大男がソファーに座るものだからいつもより深く沈む。 無言と静寂が広がりコプチェフが俺の方に顔を向けて口を開く。だから俺もコプチェフの顔をみる。 「ねぇ、ボリス?」 「ンだよ。」 「ボリスってよく鳴くよね。」 「はァ?」 コプチェフは俺の顔を見ながら、意味不明な事を言った。 なく?馬鹿か?俺はないてねぇよ。 「…何、意味わかんねぇ事言ってんだ?」 「え?意味判らない?」 当たり前の疑問を問いかけたにも関わらず、コプチェフは首を傾げて俺に問いかけてきた。話が噛み合わなくて少しだけ腹が立ってきた。 「いや、普通に考えて意味わかんねェだろ。俺が泣く?んな訳ねェだろ?」 俺は呆れながら頭をかいて、ソファーに深く腰掛ける。続いてコプチェフも深く腰を掛けた。 「あぁ、ごめんごめんね。そっちの『泣く』じゃないんだ。鳥が『鳴く』…とか、そう言う意味の方の鳴くなんだ。」 「…あァ?俺がいつ鳴いてんだよ。」 コプチェフはなにもない天井を眺めながら、俺は腕を組んでコプチェフを見続けた。 「ん?今日の昼辺りからじゃない?……叫んでるでしょ。声が枯れかけるまで。鳴いてるでしょ?」 「……っ!!?」 「うん、普通に気が付くよ。隠しても意味ないよ。ボリスはわかり易いから。」 「…は?」 「……涙を流して泣きなよ。ボリスは泣いてないよ。ただ大声をだして、鳴いてるだけなんだ。心の内にあるぐしゃぐしゃの感情を隠して隠して、隠しきれなかったら大声を出して紛らわすだけなんだ。それだと何も意味はない。」 俺は目を見開いて淡々と喋り続けてたコプチェフを両手で思い切り突き飛ばした。座っている体制だからそこまで離れてはくれなかった。 「うっせェ!…うっせぇンだよ……全部知ってるみたいに言ってんじゃねェよ。」 それでもコプチェフは微笑みながら、まるで子をあやすかの様な表情をして、俺の両手を優しく強い力で掴む。あぁ、ダメだ、逃げられねぇ…。 「大声で鳴かなくていい。叫べる場所を必死に探さなくて良い。だから隠れながらでもいいから、泣いてよ。溜めないで、少しだけでも良いから俺にボリスをみさせてよ。」 「っっに言ってんだよ!離れろ!俺の両手触ってんじゃねェよ!!」 「逃げないで、怯えないで!離れちゃ駄目!俺も色々聞いてあげる。だから…、…お願い。抱え込みすぎないで…」 俺は怖くて恐ろしくてコプチェフから離れようとしたのに、やっぱり握力が強すぎて振りほどけなかった。 「抱え込んでねェ!テメェ自意識過剰すぎんだよ。ほっとけよ、1人にしてくれ。」 「俺はボリスが1人になりたい時は1人にしたい。けどね、ボリスは抱え込み過ぎたんだよ。だから気分も悪くなるんだ…。ぼろぼろになっていくボリスは見たくないんだ。俺は…ボリスを愛しているんだよ?」 お前は、何だよ…冗談かましてると思えば…こんな真剣に俺を見ようとする。 その真っ直ぐで素直な瞳を、俺は直視する事が出来なくなってとっさに顔を下に向かせた。 「ふざけんな、ふざけんじゃねェよ。お前には、関係ないんだ…いや、関わっちャいけねぇんだよ…ろくな事起きねェ。」 「…安心して、ボリス。俺はそんな言葉を受け入れる気はないからさ。どんなに深くに沈んだとしても俺は…手を握りしめるし、受け入れる。キスだってする。俺にはね…」 コプチェフの握る力が増したから俺はおずおずと顔を上げると俺の唇に温かいものが触れた…慣れ親しんだコプチェフの唇だ。そしてすぐ離れた。 「コプチェフ?」 コプチェフの顔は俺が今まで見たこと無いくらい悲痛な表情をしていて胸が締め付けられた。 「俺には…ボリスが必要なんだよ。居ないと俺辛いんだ。」 「…おい。」 「だから1人で溜めすぎないで。お願いだから、俺にも触れさせて…鳴いてないで…泣いて。側にいるから…ねぇ、ボリス俺の何が足りたいの?」 コプチェフに抱きしめられ、その腕の中から逃げる事は出来るのに、出来なかった。ただ、急に泣きたくなった…どうしてだ? 「…っ…ば、ばかっ…!俺の事でそんなに悩む必要全くねぇー!…あほっ…ッ…。」 「悩むよ。俺の大事な人だから。」 背中をさすられ、頭を撫でられながら…コプチェフの温もりと匂いを感じながら…俺も悟った。 「俺……おれ、…テメェがいねぇとっ…ひッぅ…ダメになりそうで……こわ、い。」 俺はコプチェフにしがみつき、胸元に顔をこすりつけて…少しずつ、とめどなく出てくる涙を止めさせる事も出来ずコプチェフの服を濡らしていく。 「俺もボリスが居ないとダメになりそうで怖い。これからは…1人で叫ばなくて良いんだ。良かったね。もう、嫌な気持ちにはならなくていいんだよ。」 「ふっ…うぁあぁぁぁあ!ひっ…あ、ああぁあ…」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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