『処刑の時間』(扉組死ネタ
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歩く音が響く。コンクリートに革の底が擦れる音。


良く着慣れた仕事の服。けどぼくのばあいは沢山ないとだめなんだ。


すぐ赤くよごれてしまうから。


だけどよごれた服はゼニが洗ってくれる。けど洗ってもよごれが落ちないときがあるから、その時は新しいのを頼んでくれる。だからいつの間にか沢山服があるんだ。


「けど今日は新しい服をきなきゃね」


処刑の時間は大好き。だけど、だけど…今日は仕事の服を着たくない。着たくないよ。

歩く音が響く。ぼくが居るここのフロアにはぼくとあの子以外誰もいない。

歩く音が止む。あの子が居る部屋…。

ぼくはその古く寂れた扉を躊躇いもなく開いた。

扉を開けばベットと椅子しかない寂れた1人部屋がぼくの視界に入る。その寂れた部屋のベットに座ってるのがあの子。

あの子は此方に気付き、顔をぼくに向ける。

いつもと全然かわーんないあの子の顔。


ぼくはあの子に、にこりと変わらない笑顔であいさつをする。



「こんにちは。カンシュコフ君」


「…こんにちは、ショケイスキー先輩」


「カンシュコフ君、きみ今どんな気分?」


ぼくは扉を閉めて、片手で持つには若干重い鎌をあの子の目の前につきつけた。


あの子は少し肩をビクつかせて、研ぎ澄まされた刃を見つめている。ちょっとだけ開く口は、少しずつ、だんだんと…震えているのが判った。


「…いつもみたいに、『かんくん』って言わないんですか?ショケイスキー先輩。」


「んー、仕事中だし真面目にやってみようかなっておもって。」


突き出している鎌の位置は変えないで、ぼくは笑う。そうかって言うあの子の顔が暗くなっていく。


そう、これは仕事なんだから。

今日だけでも真面目にやらなきゃね。


どんなに、いやでも。


今日だけは。


あの子は笑って言う。


「今の気分は…最高に最悪ですよ。」


そして、鋭い目をして臆する事なく鎌の刃に触れる。血が出るってほど握るわけではなくて。

そう、変わらない顔。その目がすきなんだ。けど、触れちゃだめだよ。この鎌でいっぱい人を消してるんだから。あの子が汚れる。さわらないで、いけない事だよ。


「……離して、その鎌から、手を」

「………」


あの子はぼくの指示に従って、鎌から手を離してくれた。ぼくは鎌をおろしてぼくの足元に置く。


それから、ぼくは瞼を閉じて、少しだけ深呼吸して、再び瞼を開けた。


そこに広がるのはやっぱり、何も変わらない椅子とベットとあの子が居るだけの空間だった。




「…カンシュコフ。」


「はい。」





あの子は、ぼくの目を見入る。そして姿勢を正す。
あの子が初めてこの監獄で働く事になった時のように…。
凛々しく、背筋を伸ばして、少し肩を震えながら…あの子は最初から何も変わってない。











「処刑の時間だよ。」













「……、…はい。」










あの子の目が急に悲しみの目になった。

当たり前だよね。


けど、やっぱり言葉にしてしまうと余計リアルに感じる。まぁ、実際にあの子を消すんだからね。


そんな事を考えていたら、あの子の声が聞こえた。


「覚醒、しないんです…か?」

「…してほしいの?」

「いや、しないでください。」

「あはは。しないよ、しない。カンシュコフ君にはしないよ。それをしたら、カンシュコフ君の最期が記憶に入らないもん。」

「あぁ、覚醒してるときは殺し方しか覚えてないんですよね。…それは、有り難いです。」


こんないつもの会話はできなくなるのか。


「ねぇカンシュコフ君。」


「何ですか?」


ぼくはあの子に近付いて、出来るだけ優しく両肩を掴んでベットに押し倒した。

とすっとベットに仰向きで倒れたあの子は怯えてる。だって肩が震えてるんだ。目に涙が浮かんでるんだ。



そんなに怯えないで…泣かないでよ。



あの子になぐさめるように、安心させるようにぼくは聞いた。


「カンシュコフ君はぼくのこと、好き?」


右手であの子の髪を触ったり、撫でたりしてあの子を落ち着かせる。


「今、そんな事を聞いて何か意味あるんですか…?」


「あるよ。おおありだよ。」


ちょっとずつ、あの子の肩の震えがなくなってきた。


「そうなんですか?」

「うん。ちょっとだけ、安心したいんだ。カンシュコフ君も、ぼくも。」

「……ショケイスキー先輩も怖いんですか?」

「うん、きっと怖いんだと思う。けど、ちゃんと仕事は果たすよ。これがぼくの仕事だから。」


けど…けどさ、一番怖い思いをしているのはあの子でしょ?こんな事言えるなんて、ぼくはなんて幸せ者なんだろう。本当にぼくは馬鹿だ。ぼくは、消えないからこんな馬鹿げた事が言えるんだ。

だってあの子はぼくに消されちゃうんだよ?恐ろしいに決まってるじゃないか。怖くて震えるに決まってるじゃないか。

だけど、どうしてだろう。何であの子は恐怖心を押し殺してまでぼくに笑いかけるのかな。

何で、両手でぼくの髪に触れて…



「大丈夫です。安心して下さい。俺は今この瞬間でもショケイスキー先輩の事大好きだし、愛していますよ。」



こんな、幸せで残酷な事を言ってしまうんだろう…?あの子は変わらず、今にも泣き出しそうな笑顔をしながら…ぼくを安心させるのかな?


あの子に触れられてる頭が暖かくて、心地よくてぼくは哀しくなった。



「…どーして。どーしてそんなこと、言えるの?怖いでしょ?恐ろしいでしょ?明日が無い絶望感…あるでしょ?カンシュコフ君に明日は二度とこないんだよ?哀しいでしょ?なんで、笑うの?なんで、なんで他の奴等とは全然ちがうん、だよ…?」


疑問に思っていた事が全部口からでてしまった。こんなに言うつもりはないのに、それでもあの子はぼくを宥める。


「全然違いませんよ。死刑囚と同じなんです。俺、やってはいけない罪を犯しましたから。それに、俺だってこんな所で死にたくないし、逃げ出したいし、俺の明日は当たり前に来るって思ってるんですよ?俺は…まだまだ生きたくて、生きたくて仕方がないんですよ。罪の意識に捕らわれる事なく。」


あの子は最低だ、と言いたかったのか、口だけが動いてぼくの髪を思い切り掴む。下唇を噛んで眉を潜めて、瞳から一滴の涙が流れた。

あぁ、ごめんね。ぼくが余計な事を聞いたから、安心させたかったのに…。けどさ、何でそれでも笑おうとするの?安心してないじゃないか。

掴まれてる髪が痛いよ。いたいよ。


「……痛いよ。……カンシュコフ君。…」

「…すみません。…ははっ、泣かないって決めたのに、泣いちゃったよ。…」


あの子は掴んでいた髪を離して涙を両手で拭う。肩が小刻みに震えてて、涙を一生懸命とめようとしてる姿がどれだけ…どれだけ虚しい姿をしているか、あの子は一生わからないんだろうな。

ぼくはあの子の髪に触れていた手を離し、立ち上がる。

顔を隠しながらベッドに倒れてるあの子を見て、人はやっぱり見かけによらないんだなとおもう。こんな、無力な子に…神様は何で無意味な事をやらせてしまうんだろう?


「…カンシュコフ君はどうやって死にたい?」

「……死に方、選べるんですか?」

「うん。えらべるよ。カンシュコフ君とロウドフ君とゼニロフ君だけだけどね。」

「、良いんですか?」

「いいんだよ。」


あの子は泣き止んだのかゆっくりと両手をどかす。少しだけ充血した瞳で、ぼくをまたみて、そしてまた少しだけ笑ってぽつりと言う。






「絞殺」






「……いーよ。」





ぼくはあの子に覆い被さる様にして座る。

あの子の温かい首にするりと触れる。






覚悟を決めなきゃ。



あの子も覚悟を決めてるんだ。




そうだよ。コレはぼくの大好きな時間で、お仕事なんだから。




だから知らない。あの子が声を殺してまたぼろぼろと泣いてるなんて、ぼくは知らない。けど、知らなきゃいけないよ。



「何で、絞殺にしたの?」

「…ショケイスキー先輩は、質問ばっかりですね。変わって、ないですね…。前も…今も…この瞬間も。」

「…だってぼくはぼくだもん。」

「そう、ですね。……絞殺にしたのは、最後の最期まで、誰かの温もりに触れられるからですよ。触れられていたいからです。俺は、死ぬんだなって再確認するためです。」


あの子は涙を拭わないで、ただぼくを見て震えて、怯えて、笑って、…何で笑うんだろう?


「そうなんだ。残酷な死に方を選んでくれたよね。」

「だって、そう思ってコレにしたんですから当たり前ですよ。」

「そうだね。…そうなんだね。」


ぼろぼろと涙を流しているあの子はふと、扉を見つめる。


「あと…ショケイスキー先輩。扉の向こうに立っている俺の大好きで愛してるあの二人に『先にいってるから』って伝えてくれませんか?」

「いーよ。伝えるね。多分聞こえてると思うけど。」

「ありがとうございます。」

「ふふ、おやすいごようだよ。」




ぼくは、あの子に触れるだけの口付けを交わした。



あの子は驚いてたけど、それでも笑ってた。





「また、あえる日を祈ってるね。かんくん…大好き、大好きだよ。」


「!…俺も大好き。…まだ、居たかったなぁ。…またあえる日を俺も祈ってるよ。…ショケイスキー先輩、ロウドフ先輩、ゼニロフ先輩……ッッッぁ」



ぼくは今どんな顔をしてるだろう?


強く…徐々に強く両手に力を入れる。




何で




あの子…かんくんは








笑ってたんだろう?
























体と魂が二つに別れた時は



何で体温が奪われるんだろう?

















「さようなら。さようなら、またね、またあおうね。神様に祈り続けたらあえるよね…?」




逢えるよね…?





















『逢えたら…俺から抱き締めてやるよ。』




















そんな都合の良すぎるかんくんの言葉が頭に響いた。
























「ねぇねぇろうどふ、ぜにろふ。」

「なんだ?」

「なんです?」

「お墓は…街が見える見通しの良い小高い丘で、風通りの良いところにしよう?」

「墓…あぁ、あいつ親も親戚も居ないからな。…動物達が居るところだったら賑やかで、楽しいだろう…」

「施設にいましたからね。…その土地は暖かい方が良いでしょうね…。私が何とかしますね。」

「さみしくならないように、街の鐘の音が響き渡る所がいいよね。」


ぼくとろうどふとぜにろふが涙を流している事はぼくたちとかんくんだけの秘密にしようと思った。







『俺、三人が来てくれるの、待ってるから。』





都合が良すぎる言葉がぼくの頭にまた響いた。










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