1/2ページ目 俺と無口なそっくりさんは使われていない家に住んでいる。 こんなビンボーっぽい生活してるけど仕事はちゃんとこなしてるよ。この無口なそっくりさんとでね。 俺はベッドの上で大の字になって寝っ転がる。顔は椅子に座って本を読んでる無口なそっくりさんに向けて 「ねぇ、あんたの名前はなんて言う名前?」 「……………」 「俺はキルネンコ。俺たち双子で血が繋がってるんだから名前くらい教えてよー」 俺たちは産まれてから別々に暮らすことになった。父さんに1人と母さんに1人って感じ。 俺は母さんに育てられることになった。 …それに双子は悪魔の訪れとも言われていたから… 1人は幸運を象徴する子 もう1人は悪魔の子らしい まぁそんな事はどうでもいい。 俺は無口なそっくりさんの方を見た。 椅子に座ってなんかの本を読んでる無口なそっくりさん 質問に答えてくれないから俺は頭を掻きながら睨みつける。 「ねぇ、この質問何日目だと思う?」 「……………」 「35日目だよー?」 初めて無口なそっくりさんを見つけた日から喋ってない。 初めて逢った所はそんな人集りも無い広場の噴水のところ。鳥とか居るんだけど、無口なそっくりさんの周りには全然とまっていなかった。 顔も身体も俺とそっくり。違うとしたら、髪が真っ赤で俺より短い髪ってだけかな? だから間違いじゃないと思って連れてきたんだけど… …今日も聞けないか そう思い俺はベッドから降りて今日の晩御飯でも食べようと準備に掛かった。 ちゃんと無口なそっくりさんにもご飯は作るよ。 人参スープでいいかな? 人参を洗うために水を出す。 かちゃかちゃと食器が当たる音や、金属の擦れる音が響く部屋に…聞いたことのない音が聞こえた。 「人、の…声?」 人の声。しかも俺の声にそっくり。そんなの世界で1人しか居ない。 思わず出していた水を止めて物音を出さないように… 耳を澄まし無口なそっくりさんの方を見た。 また無口なそっくりさんは言う。 「……お前の、傍に居た奴はどう死んだ?」 目線は本に向いてるけど、質問は俺に向いてるのかな? 「…お前って喋るんだ。よかったぁ、声出ないのかと思ってた……傍にって母さんの事?」 「それ以外なにがある。そいつが生きていれば俺達は逢わなかった。」 「だって母さんが双子の片割れに逢いに行きなさいっていったんだしー。」 「どう死んだ」 「自殺だよ。」 テンポ良く何事もないかのようにすらっと言った。 「しかも俺の目の前でね」 「…………」 「それがどうしたの?」 35日目から初めて声を発して、初めて俺と向き合ったのかと思ったらこんな会話。 ちょっと気分が悪くなって俺は無口なそっくりさんに近付いて今読んでいる本を奪った。 本を奪われた無口なそっくりさんは何もない自分の手を見る。それでも質問をする無口なそっくりさん。 「愛されていたのか?」 やっぱりこっちを見ないで、無口なそっくりさんは手を握っては開き握っては開きの繰り返しをしている。 「…は?」 「愛されていたのか?」 俺と無口なそっくりさんと話が噛み合ってない様な気がするのは気のせいかな?と言うか名前まだ教えてもらってないなぁ… 「母さんに愛されていたかってこと?」 「…それ以外何がある」 ちょっと苛々しているらしい無口なそっくりさん。俺はため息をして云う 「愛されてたし、愛してたよ。だって母さんが居たお陰で立派な人殺しになったんだし。」 「………あぁ、そう言う事…か」 無口なそっくりさんは椅子から降りて、くるりと廻る。まぁ、廻るって言っても一回転だけだけどね。 俺よりも紅くて短い髪を靡かせ、俺の方を向いてほくそ笑む。 あ、やっと俺の方見た 口を開いた言葉は聞きたくない言葉だった。 「…テメェが俺から離れなかったのは…愛されたいから、か」 「――!!ッ……」 クスクスと笑う無口なそっくりさんは話を進める。 「可笑しいだろ。こんな、無口で無愛想な野郎を相手するなんてな。」 何だ?何で俺の質問にも答えないヤツに変な事言われる筋合いがあるんだ… 「……」 俺が黙っていても無口なそっくりさんは口を開く。 「大好きで愛してる『母さん』と一緒に居て、自殺をして、誰でも良いから愛が欲しかったんだろ?傍に居てほしかったんだろ…?」 苦虫を噛みしめるような表情をしながら俺は右のポケットから愛用のナイフを取り出す。 「違うから!…ねぇ、何?喋ったと思ったら変な事言ってさァ!俺の質問に答えないで!」 クスクス笑う無口じゃなくなったそっくりさんは俺を見透かすように話しかけてくる。 「淋しかったんだろ?恐かったんだろ?相手にされないで、ただ独りで喋る生活が。」 「煩い煩い!俺の質問に答えろ!お前の名前な何だよ!」 取り出したナイフを思い切り握り締める。 まさか、こんな嫌な性格だとは思わなかった。 俺も中々嫌な性格だけど、ここまで非道くないと思いたい。 『悪魔』だ。 きっとそうに決まってる。 「名前名前うるさい。『母さん』に言われたのか?まずは名前を聞くことから始めなさいって…」 何かが俺の中でキレたみたい。 両腕をふらふらさせる無口じゃなくなったそっくりさん目掛けてナイフを投げた。 左の手の平に貫通しながら椅子の背もたれに刺さる。 「母さんを侮辱してるのか?それに何なんだよ。俺の事ばっかり喋って、お前の事は喋らない。不公平だろ、悪魔。」 無口じゃなくなったそっくりさんはナイフからだらだら流れる血を見ていた。 「悪魔…か。それはテメェにも言えること何じゃないか?」 手の平に刺さっているのに表情を変えない無口じゃなくなったそっくりさん。 「はぁ?どういう事?」 深い溜め息をしながら、無口じゃなくなったそっくりさんは右手でナイフを抜く。勿論表情一つ変えないで。 「俺たちは狂ってる。」 血がびっしりこびり付いてるナイフを、右手でクルクル回しながら当たり前の様に言った。 「…お、俺と一緒にしないでよ!」 苛々する。 「あぁ、後テメェは俺の名前が知りたいんだろ?教えてやるよ。」 苛々する…! 俺の話なんか全く聞かないで自分のペースで喋る…。 俺は苛々しながらも、冷静になって無口じゃなくなったそっくりさんをみる。 クルクル回すナイフ。 少しずつ広がっていく血。 少し笑いながら目を閉じて、口をあける。 「俺の名前は『キレネンコ』。親の…あの野郎の息子らしい。で、テメェの双子。愛情と言うモノは生きていた中で一切感じなかった…し、感じたくなかった。毎日毎日俺の身体を傷付けては、罵声…それの繰り返し。当然マフィアだから現場に連れて行かれる。あの野郎は俺1人で戦わせようとする。むしろ俺は1人で戦っていた…な…任務が終わった後は必ず俺をマトにして銃でバンバン撃ってくる。他にも斧とか爆弾とか。殺す気満々だったな。普通に頭とか心臓とか狙ってたから。ま、死んだけどな…これを言ってると…俺とテメェは正反対だ…」 無口じゃなくなったそっくりさんは目をあける。 クルクル回していたナイフをとめて。 「…………………」 俺は声が出なかった。 いつの間にか苛々も消えていた。 何に驚いてたんだろう。 それは無口じゃなくなったそっくりさんがすごい喋ったから? 俺とは正反対過ぎる生活をしていたから? 俺のナイフで刺していた傷穴がもう塞がっていたから? 「な…んで?」 「『悪魔』だからじゃねぇえか?」 塞がった手の平を俺に翳しながら俺に近付いていく。 離れようと、距離をとろうと俺は後ろに下がろうとしたけど無理だった。身体が震えていた。 「…何に脅えてるんだ?」 近付いてきた無口じゃなくなったそっくりさんが翳した手を俺の右頬に添える。 「脅えてない!震えてない!俺は普通だッ!」 触れている所が温かい。けど怖い。 「…テメェの母さんは、優しかったんだよな?じゃあ…今まで怪我は一切したことがないだろ。いや、させなかったんだろ?」 頭が回る。無口じゃなくなったそっくりさんの顔を見たくないのに見てしまう。 「か、母さんは俺の事が大好きなんだ。だから、だから仕事の時も俺から離れなかった。助けてくれた…!俺はお前とか違う!普通に愛されてたんだ!俺は普通だッ!『悪魔』なんかじゃない!!」 それを言い放った後、無口じゃなくなったそっくりさんは俺に抱きついてきた。それは母さんが俺を抱き締めた時みたいに暖かく包んでくれる、優しい包容。 右頬に添えていた左手を背中に回し顔を俺の耳の当たりにこすりつけて。 俺に囁く 「……じゃあ、このナイフでテメェの手の平をを刺したら…普通に痛がって、塞がるのに時間が掛かって、傷跡も残るのか…?」 そう囁いてから、無口じゃなくなったそっくりさんは俺から少し離れると、俺の右手を掴んだ。 「知らないよ。離してよ。」 掴む力が強いから離れるのは無理だった。 俺は抱きつかれてから、不思議と安心していた。 あんなに苛々していたのに、震えていたのに、これから行われる残酷な現実から逃げたいのに… 無口じゃなくなったそっくりさんの顔を見ていると…ふと、思ったことがある 「……母さんは……俺の事、『悪魔』だと思ってたのかなぁ?もし、俺が大怪我したら母さんは俺の事嫌いに……なって…?」 言ったところで意味はないと知っている。 何で母さんは死んだんだろう。 何で最後に愛してると言ったんだろう 何で……―― 「思ったとしても、もうお前は」 振りかざされたナイフは乾いた風の音と共に俺の手の平へと降ろされる 俺の右手にナイフが刺さった。 痛くない。 けど流れる血。 人を何人も殺しているから分かる。 こんな神経が沢山ある手にナイフが刺さったら叫ぶし、激痛がくる。 「俺と同じ『悪魔』だ。『悪魔』って言っても例え話だけどな。ただ異常なだけだ。俺達は狂っている…それだけだ」 抜かれるナイフの感触が気持ち悪かった。痛くなくて、ただ引き抜かれる感触。 もう、普通の人じゃなくなったのかと実感してしまう。 「…俺は違うのか。」 無口じゃなくなったそっくりさんは首を傾げる。 「他の奴らを比べてどうする。奴らから見たら俺達は異常だが、俺達にとってはこれが普通で平凡な生活だろ。」 ばーかと言って軽く頭を小突かれた。 良く分からないけどそれが歯痒くて嬉しかった。 母さんみたいに暖かくて。 「じゃあ俺は愛情を教えてあげるよ。…キレ兄ぃ」 いつの間にか俺の傷は痕も残らず塞がっていた。 「これで俺達は同じだね」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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