噂は噂
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「そういえば…知ってるか?あの噂…」

「噂?」

洋介は同じクラスの仲間達の他愛もない噂話につきあっていた。

「錐生のことだよ」

(ああ、またか…)

洋介は半ばうんざりした。
錐生は風紀委員で頭もかなりいい。
ここだけなら、優等生に聞こえるだろう…。
しかし、実際は全く違う。
授業はサボるし、たとえ出席しても寝てばかり(らしい)。
おまけに首にイレズミ、耳にピアス、そしてダブり…。
名門校である黒主学園の生徒からすれば──いや、誰でもガラが悪いと思うだろう。

そのため、錐生に関しての噂は絶えない。
ただ、一目置く──というかみんな錐生を恐れているので、本当にコッソリとしか広がらないのだが。

「で、今度はなんだ?」

洋介は噂を持ち出した長田に尋ねた。

長田は辺りを見回し、錐生がいないことを確認すると喋りだした。
(錐生は隣りのクラスなのだが…)

「あいつって常に銃を持ち歩いてるらしいんだ」

「…………」

洋介は呆れて何も言えなかった。

今までの錐生の噂といえば──
『3階から飛び降りて無傷だった』とか、『運動神経がいいのは山籠もりをして修行したからだ』とか、『理事長を半殺しにしたことがある』など、信憑性がないものばかりである。

(まったく…長田がこんな噂を信じるとは…)

洋介はこっそりため息をついた。

しかし、長田の話を一緒に聞いていた他の2人の反応は───

「…マジかよ?」

「錐生ならありえるかもな」

(…この3人はどうしていつもこうなんだ?)

洋介は頭を抱えたくなった。
洋介も極稀に噂を信じることはある。

だが、錐生に関しての噂はどれ一つとして信じるつもりがなかった。
『所詮噂は噂だ』
そう言って、ぶっ飛んだ噂話をする3人を止めるのが洋介の仕事である。

今回もその仕事を果たそうと洋介が口を開きかけると…

「…確かめてみるか?」

長田が神妙な面もちで提案した。

「え」

思ってもみない言葉に残りの3人は本気でびっくりした。

「確かめるって…錐生に!?」

考えただけでもゾッとする。
噂を信じない洋介でも錐生は恐いのだ。

「まさか!!ほら、錐生と一緒に風紀委員を
やっている黒主にだよ」

「ああ、あの娘か」

「話したことないけど、黒主なら聞きやすそうだな」

「たしか隣りのクラスだったよな?」

洋介をおいて話はどんどん進む。

「お…おい」

───そうして、昼休みに黒主に噂の真偽を確かめることになった。





* * * * *





授業の終わりを告げるベルがなった。
昼休みだ──。

4人は一緒に立ち上がると、隣りのクラスへと向かう。

洋介は前向きに考えることにした。
黒主については、この学園の理事長の娘で風紀委員ということしか知らない。

(何度か廊下ですれ違ったときに、結構かわいいなぁと思ったことはあるけれど)
だから錐生のことをどこまで知ってるか分からないし、期待しない方がいいかもしれない。

でも、もし黒主がこの馬鹿げた噂を否定してくれれば3人も目が覚めるはずだ。


幸いにも教室に錐生はいないようだ。
黒主はすぐに見つかった。

「黒主さん、ちよっといいかな?」

「え?いいけど…」

黒主は少し戸惑った様子ではあったが、質問には答えてくれるだろう。

「俺、隣りのクラスで長田っていうんだ。で、順に川上(洋介の名字)、落合、須田」

長田に紹介されるとそれぞれ軽く会釈した。

「黒主さんって錐生と仲よかったりする?」

いきなり銃どうのこうのと尋ねるのはどうかと思ったので、洋介は軽く話をふってみた。

「零と?う〜ん…仲いいっていうか姉弟みたいな感じかな」

(黒主って錐生のこと下の名前で呼ぶのか…)

かなり意外だった。

しかし、噂の真偽について確かな答えを期待できそうだ。

「へぇ…錐生って恐い人だと思ってたんだけど、そうでもないの?」

「まあ睨むし、すごく目つき悪いけどね。あれでも優しいところあるよ」

そう言って黒主はニッコリ笑った。

「普段はあれだし、他のクラスのではやっぱり恐がる人も結構いるけどね」

「そっか。俺達みたいに違うクラスだと、変な噂で勝手にイメージ創っちゃってるから…」

洋介は少し反省しつつも、ゆっくり話の流れを噂の方にもっていった。

「噂?」

案の定、黒主は問い返してきた。

「そうなんだ。3階から飛び降りても無傷だったとか、山に籠もって修行してたとか」

長田は待ってましたとばかりにまくしたてた。

だが、さすがに理事長のことと銃のことを聞くのは気が引けるらしい。
それでも洋介には十分だった。
黒主がこの2つの噂を否定すれば、コイツらだって残りの噂はデマだと気づくだろう。

しかし、黒主の答えは──

「3階?零だったらそれくらい大丈夫だと思うけど」

(ちよっと待て!!3階だぞ!?何が大丈夫なんだよ!?)

「じゃあ修行の方は?」

黒主は少し考え込んだ。

(頼むから違うと言ってくれ!!)




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