1/4ページ目 「そういえば…知ってるか?あの噂…」 「噂?」 洋介は同じクラスの仲間達の他愛もない噂話につきあっていた。 「錐生のことだよ」 (ああ、またか…) 洋介は半ばうんざりした。 錐生は風紀委員で頭もかなりいい。 ここだけなら、優等生に聞こえるだろう…。 しかし、実際は全く違う。 授業はサボるし、たとえ出席しても寝てばかり(らしい)。 おまけに首にイレズミ、耳にピアス、そしてダブり…。 名門校である黒主学園の生徒からすれば──いや、誰でもガラが悪いと思うだろう。 そのため、錐生に関しての噂は絶えない。 ただ、一目置く──というかみんな錐生を恐れているので、本当にコッソリとしか広がらないのだが。 「で、今度はなんだ?」 洋介は噂を持ち出した長田に尋ねた。 長田は辺りを見回し、錐生がいないことを確認すると喋りだした。 (錐生は隣りのクラスなのだが…) 「あいつって常に銃を持ち歩いてるらしいんだ」 「…………」 洋介は呆れて何も言えなかった。 今までの錐生の噂といえば── 『3階から飛び降りて無傷だった』とか、『運動神経がいいのは山籠もりをして修行したからだ』とか、『理事長を半殺しにしたことがある』など、信憑性がないものばかりである。 (まったく…長田がこんな噂を信じるとは…) 洋介はこっそりため息をついた。 しかし、長田の話を一緒に聞いていた他の2人の反応は─── 「…マジかよ?」 「錐生ならありえるかもな」 (…この3人はどうしていつもこうなんだ?) 洋介は頭を抱えたくなった。 洋介も極稀に噂を信じることはある。 だが、錐生に関しての噂はどれ一つとして信じるつもりがなかった。 『所詮噂は噂だ』 そう言って、ぶっ飛んだ噂話をする3人を止めるのが洋介の仕事である。 今回もその仕事を果たそうと洋介が口を開きかけると… 「…確かめてみるか?」 長田が神妙な面もちで提案した。 「え」 思ってもみない言葉に残りの3人は本気でびっくりした。 「確かめるって…錐生に!?」 考えただけでもゾッとする。 噂を信じない洋介でも錐生は恐いのだ。 「まさか!!ほら、錐生と一緒に風紀委員を やっている黒主にだよ」 「ああ、あの娘か」 「話したことないけど、黒主なら聞きやすそうだな」 「たしか隣りのクラスだったよな?」 洋介をおいて話はどんどん進む。 「お…おい」 ───そうして、昼休みに黒主に噂の真偽を確かめることになった。 * * * * * 授業の終わりを告げるベルがなった。 昼休みだ──。 4人は一緒に立ち上がると、隣りのクラスへと向かう。 洋介は前向きに考えることにした。 黒主については、この学園の理事長の娘で風紀委員ということしか知らない。 (何度か廊下ですれ違ったときに、結構かわいいなぁと思ったことはあるけれど) だから錐生のことをどこまで知ってるか分からないし、期待しない方がいいかもしれない。 でも、もし黒主がこの馬鹿げた噂を否定してくれれば3人も目が覚めるはずだ。 幸いにも教室に錐生はいないようだ。 黒主はすぐに見つかった。 「黒主さん、ちよっといいかな?」 「え?いいけど…」 黒主は少し戸惑った様子ではあったが、質問には答えてくれるだろう。 「俺、隣りのクラスで長田っていうんだ。で、順に川上(洋介の名字)、落合、須田」 長田に紹介されるとそれぞれ軽く会釈した。 「黒主さんって錐生と仲よかったりする?」 いきなり銃どうのこうのと尋ねるのはどうかと思ったので、洋介は軽く話をふってみた。 「零と?う〜ん…仲いいっていうか姉弟みたいな感じかな」 (黒主って錐生のこと下の名前で呼ぶのか…) かなり意外だった。 しかし、噂の真偽について確かな答えを期待できそうだ。 「へぇ…錐生って恐い人だと思ってたんだけど、そうでもないの?」 「まあ睨むし、すごく目つき悪いけどね。あれでも優しいところあるよ」 そう言って黒主はニッコリ笑った。 「普段はあれだし、他のクラスのではやっぱり恐がる人も結構いるけどね」 「そっか。俺達みたいに違うクラスだと、変な噂で勝手にイメージ創っちゃってるから…」 洋介は少し反省しつつも、ゆっくり話の流れを噂の方にもっていった。 「噂?」 案の定、黒主は問い返してきた。 「そうなんだ。3階から飛び降りても無傷だったとか、山に籠もって修行してたとか」 長田は待ってましたとばかりにまくしたてた。 だが、さすがに理事長のことと銃のことを聞くのは気が引けるらしい。 それでも洋介には十分だった。 黒主がこの2つの噂を否定すれば、コイツらだって残りの噂はデマだと気づくだろう。 しかし、黒主の答えは── 「3階?零だったらそれくらい大丈夫だと思うけど」 (ちよっと待て!!3階だぞ!?何が大丈夫なんだよ!?) 「じゃあ修行の方は?」 黒主は少し考え込んだ。 (頼むから違うと言ってくれ!!) <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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