理事長の年賀状
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カリカリカリ…



「ふふっふふっ…」



真夜中のリビングから微かに漏れる明かりと不気味な笑い声。
はっきりいって、かなり怪しいシチュエーション。
しかし、その声の持ち主はここの家の持ち主でもあるわけで。
さらにその男がかなりの変人とくれば…。



(放っておくに限る)



零は廊下を軋ませぬよう、そっと踵を返したのだが。



「ボクの可愛い子供たちにお揃いのパーカーを着せてみました!(b^ー°)どぉ?どぉ?可愛くない!?ゆっきーが可愛いのは言うまでもないんだけど、錐生くんのこの照れ具合もまたいい感じだよね。あ、今年もヨロシク――と、これでよし!」



バァンッ!!



「わっわっわ、錐生くんっ!?」

「理事長…」



吸血鬼の優れた聴覚で粗方の状況を掴んだ零は、ドアを開け放つと理事長をギロリと睨んだ。
勝手にヒトの写真を年賀状にするな。
そんなアホ丸出しの年賀状誰に出すんだ。
最後にオマケみたいに宜しくとか有り得ねーだろ。
何が『よしっ!』だ!?
どこから突っ込めばいいのやら。
頭の中で言葉を選んでいると、視界に入った大量の年賀状。
そしてその全てに刷られた写真を見て、零は一番の文句を口にした。



「ヒトの写真になんて物合成してんだ!?この変態!!」



お揃いの白いパーカーを着た零と優姫。
「お揃いで買ってきたから記念に写真撮ろ〜!」と言われて渋々写った覚えはある。
優姫が零に抱き着くという構図だったのも確かだ。
しかし、兎の耳を装着した覚えは断じてない。
しかもこの枚数…。
こんな恥ずかしい格好をハンター協会関係者に見られるなんて、どんなことをしても避けたい。



「まさか協会関係者も含めて、全員にこの年賀状を出すのか…?」

「まっさか〜」



落ち着きを取り戻した理事長は手を振って否定した。
その仕草がオバサンじみていると思いつつ、零がホッとしたのもつかの間。



「枢くんにはちゃんと違うの送るよ〜。じゃないとボクも君もただじゃ済まないからねぇ」



(…は?)



「とりあえず優姫のドアップ写真にしておけば間違いないかなー」



つまり…



「玖蘭枢以外にはこの年賀状を送るってことですか…?」

「もっちろん!年賀状ってのはね、子供を見せびらかす機会なんだよ♪夜刈くんもなんやかんや毎年楽しみにしてくれ――」

「今すぐ書き直せぇぇぇ!!!」



――理事長からのまともな年賀状を見て、夜刈がこっそりがっかりしたのは1月3日のことでした。



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