名も無き銃に願いを
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「それじゃあ各自――」



ふと、先生の言葉は一瞬途切れて。
ギイィ…と悲鳴をあげる完全防音の鉄の扉に一同が注目した。
そこから臆することもなく入ってきたのは零だ。
約10分の遅刻。
そして、発砲時の衝撃を抑える手袋もヘッドホンをつけていない姿は、先生の怒りを買うのに十分だった。



「錐生、遅刻たぞ!」

「…すみません」

「それに手袋とヘッドホンはどうした!?やる気あんのか!?」

「ないです」



余りにも即答で、尚且つ素っ気ない内容だった。
先生が青筋を立て、頬を引き攣らせるのも無理はない。



「じゃ、じゃあ何しにここへ来た?」

「暴発させそうなやつがいるから見張っておくよう、理事長に言われたんで…」



誰も寄せつけない零が面倒を見ることを引き受け、尚且つ理事長なんて単語が結び付くのは一人しかいない。
零に集まっていた視線が当たり前のように優姫に向けられた。
話の流れからいえば当然かもしれない。
しかし、"暴発させそうな"という形容を認めるかのような行動は少々腹立たしい。
そして、その元凶である零なんて腹立たしいどころか憎たらしい。
遅刻しておきながら何偉そうにしてんのよっ!!なんて叫ぼうものならますます好奇の目に晒されるので黙っておくが。



「理事長が…って言ってもな、錐生。お前、指導できる程の腕があんのか?」



普段の乗馬の授業でもサボる零。
しかしそれが黙認されているのは、ひとえに零の実力にある。
零のずば抜けた身体能力は先生顔負けといっても過言ではなく、先生も零に対しては強く言えないところがある。
ところが今回の射撃には随分な自信があるようで。
教師としての威厳を取り戻そうと強気に出ているのが窺える。



「素人に基礎を教えるくらいならできますよ」



素人って!とは思ったが、ずっと零の横で見ているだけだった優姫は確かに素人以外の何者でもない。



「ならお手本を見せてもらおうか」



先生は生徒用の小銃をひとつ取り上げると零の前に差し出した。
その自信に満ちた先生の顔が優姫には痛々しい。
零に銃を渡してはいけない。
ましてやお手本なんてとんでもない。
しかし、今優姫が何と言おうがこの状況を打開するどころか先生の闘争心に火をつけることは明らかで。
結局、黙って先生の鼻っ柱が折られるのを見守ることになった。



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