小動物の温もり
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部屋に差し込む春の日差しを眺めながら零は長期休暇のありがたみをかみしめていた。
授業がない。
風紀委員の仕事もない。
そして何より、この敷地内にあの忌々しい吸血鬼はいないのだ。
最近更に眩しく感じるようになった陽の光さえ心地よく、まどろみに身を任せていると廊下をパタパタと走る音が耳に届いた。



「零ー!開けてー!」



ドアの向こうから聞こえたのは間違いなく優姫の声。
だが、優姫の"開けて"という言葉に零は首を傾げた。
普段はノックもしないで勝手に入ってくるようなデリカシーの欠片も無いヤツなのに。
渋々ドアを開けてやれば、そこには当然ながら優姫がいて。
そして彼女の腕にはジタバタともがく白い猫。
もちろん後者は不自然極まりない。



「ほら!ネコちゃん!!」

「…見りゃわかる」

「可愛いでしょ?」

「可愛いっつーか可哀想だな…」



嬉しそうに猫を抱える優姫とは対照的に、放せとばかりに暴れまわる猫を前にして思わず本音が口をついた。
けれど、猫に夢中になっている優姫の耳には届かなかったらしい。
更に、優姫は猫が嫌がっていることにも気づいてないらしく、何のお構いなしに猫の頭に頬ずりをしていた。
優姫は昔から犬や猫を見かけると何も考えずに撫で回すクセがある。
大方今回も校内で散歩を楽しむ野良猫を拉致ってきたのだろう。



「はい!」

「…は?」



いきなり猫を突き出してきた優姫に、零は戸惑いを隠せなかった。



(俺に同じことをしろと…?)



しばらく猫と無言で見つめ合っていると、優姫が更に猫を突き出した。



「零も抱っこしたいでしょ?」

「……」



嬉しくもないが予想通りの展開。
確かに動物嫌いなわけではない。
しかし、大の男が嫌がる猫に頬ずり…。
そんな気持ち悪いとしか形容できないような光景、想像するのだって御免だ。



「俺は──」

「あっ!」



『俺はいい』と言うつもりだった零の言葉を遮るように、猫はスルリと優姫の腕から抜け出した。
そのまま廊下を猛ダッシュ。



「…お前、あの猫に何したんだよ?逃げ方が尋常じゃねぇんだけど」

「なっ…人を動物虐待者呼ばわりするなんて失礼な!?ちょっと抱っこして頭にチューしただけだよ!!」

「猫にそんなことするのか…」



呆れたように見下ろせば優姫の頬は膨らみ、とうとうそっぽを向いてしまった。


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